ホークス・川島慶三を負傷退場させたファイターズ・田中賢介のプレーは守備妨害ではないのか? -公認野球規則をもとに紐解いていく-
プロ野球開幕から2週間あまり。
ローテーションも3回り目に入り、各球団の実力差が少しづつ見えてきたような感じがします。
さて、今シーズンの大きな変化といえばコリジョンルール。
キャンプ中はこのルールに頭を悩ませていましたが、いざ開幕してみると1•3塁でのランダンプレーなどその制約を巧みに活用した戦術を用いているなという印象があります。
さて、コリジョンといえば4月3日のホークス対ファイターズ戦で非常に残念なプレーが起こりました。
4回裏、1アウトランナー1•3塁、ホークス1点リードの場面。
中田翔が放った打球をホークスのサード松田が捕球。
2塁へ転送した際にセカンドの川島とメジャー帰りの1塁ランナー田中賢介がベースではなく川島に向かってスライディング。
川島はこの際に負傷し、1塁へ転送できず。
ホークス側は守備妨害を主張するも二塁塁審石山はこれを認めず、3塁ランナーの生還が認められる結果となりました。
この後、リズムを崩したホークス。レアードに3ランホームランを浴び逆転を許し配線。川島が負傷しただけでなく、試合も落とすという最悪の結果となりました。
ネットでの反応を見ていると
といった声が多く上がっていました。
冷静さを失ったコメントも多く見られましたが実際のところどうなのか、ルールに照らし合わせてみてみたいと思います。
コリジョンルールが適用されるのか?
今回のプレーにコリジョンルールを適用すべきでは?
という声が上がっていますが、そもそもコリジョンルールがどのような場面で適用されるのかを見て行きたいと思います。
※引用部分は流し読みしていただいて結構です。
(9) 6.01(i)(【原注】および【注】含む)を追加する。
- (i)本塁での衝突プレイ
- (1)得点しようとしている走者は、最初から捕手または本塁のカバーに来た野手(投手を含む、以下「野手」という)に接触しようとして、または避けられたにもかかわらず最初から接触をもくろんで走路から外れることはできない。もし得点しようとした走者が最初から捕手または野手に接触しようとしたと審判員が判断すれば、捕手または野手がボールを保持していたかどうかに関係なく、審判員はその走者にアウトを宣告する。その場合、ボールデッドとなって、すべての他の走者は接触が起きたときに占有していた塁(最後に触れていた塁)に戻らなければならない。走者が正しく本塁に滑り込んでいた場合には、本項に違反したとはみなされない。
【原注】走者が触塁の努力を怠って、肩を下げたり、手、肘または腕を使って押したりする行為は、本項に違反して最初から捕手または野手と接触するために、または避けられたにもかかわらず最初から接触をもくろんで走路を外れたとみなされる。走者が塁に滑り込んだ場合、足からのスライディングであれば、走者の尻および脚が捕手または野手に触れる前に先に地面に落ちたとき、またヘッドスライディングであれば、捕手または野手と接触する前に走者の身体が先に地面に落ちたときは、正しいスライディングとみなされる。捕手または野手が走者の走路をブロックした場合は、本項に違反して走者が避けられたにもかかわらず接触をもくろんだということを考える必要はない。- (2)捕手がボールを持たずに得点しようとしている走者の走路をブロックすることはできない。もし捕手がボールを持たずに走者の走路をブロックしたと審判員が判断した場合、審判員はその走者にセーフを宣告する。前記にかかわらず、捕手が送球を実際に守備しようとして走者の走路をふさぐ結果になった場合(たとえば、送球の方向、軌道、バウンドに反応して動いたような場合)には、本項に違反したとはみなされない。また、走者がスライディングすることで捕手との接触を避けられたならば、ボールを持たない捕手が本項に違反したとはみなされない。
本塁でのフォースプレイには、本項を適用しない。
【原注】 捕手が、ボールを持たずに本塁をブロックするか(または実際に送球を守備しようとしていないとき)、および得点しようとしている走者の走塁を邪魔するか、阻害した場合を除いて、捕手は本項に違反したとはみなされない。審判員が、捕手が本塁をブロックしたかどうかに関係なく、走者はアウトを宣告されていたであろうと判断すれば、捕手が走者の走塁を邪魔または阻害したとはみなされない。また、捕手は、滑り込んでくる走者に触球するときには不必要かつ激しい接触を避けるために最大限の努力をしなければならない。滑り込んでくる走者と日常的に不必要なかつ激しい接触(たとえば膝、レガース、肘または前腕を使って接触をもくろむ)をする捕手はリーグ会長の制裁の対象となる。
【注】 我が国では、本項の(1)(2)ともに、所属する団体の規定に従う
ざっくりと要点をまとめると
- ホームでの捕手へのタックルの禁止
- キャッチャーはランナーがホームインできるよう走路をあける
- キャッチャーはブロックをしてはいけない
ということです。
対象はホームベースでのクロスプレーに限るのであって、今回のように二塁塁上におけるものはNPBにおいてはコリジョンルールの適用範囲内ではないということになります。
というわけですので、感情論的に退場にさせたい気持ちもわかりますが田中賢介を退場させる根拠はこのプレーではない、ということになります。
(サッカーだったら、一発レッド+3試合くらい出場停止かもしれませんが)
とりあえず、会社でこのプレーの話題になった時に「コリジョンルールだよね、あれは」、「退場じゃないのおかしいよね」とか言わないようにしておくと「おっ、こいつ野球知ってるな」と野球をよく知っていると思ってもらえることでしょう。
守備妨害ではないのか?
先に、コリジョンルールの適用外であるということを説明しました。
続いて、守備妨害ではないのか?という点について見て行きたいと思います。
まず、負傷した場面の動画をご覧ください。
セカンドの川島はセカンドベースを踏んでアウトを獲得したあと、後ろ足をベースから離して併殺崩れを防いでいるようにも見えます。
そこに、田中賢介がレイトでタックルをかけているような印象を受けます。
ここで、このプレーが守備妨害とみなされるか否かについて、公認野球規則を元に見て行きたいと思います。
(5)アウトになったばかりのバッターまたはランナー、あるいは得点したばかりのランナーが、味方のランナーに対する野手の次の行動を阻止するか、あるいは妨げた場合はそのランナーは味方のプレーヤーが相手の守備を妨害(インターフェア)したものとして、アウトを宣告される。(5.09a13参照)
「原注」バッターまたはランナーがアウトになった後走り続けてもその行為だけでは野手を惑乱したり、邪魔したりまたは遮ったものとはみなされない。
「注」本項を適用するに当たって、2人または3人のランナーがある場合、妨げられた守備動作が直接1ランナーに対して行われようとしていたことが判明しているときはそのランナーをアウトにし、どのランナーに対して守備が行われようとしていたか判定しにくいときは、本塁に最も近いランナーをアウトにする。
前項によって、一ランナーに対してアウトを宣告したときはボールデッドとなり、他のランナーは守備妨害の行われた瞬間すでに占有していた塁に帰らせる。
ただし、打球を直接処理した野手がバッターランナーに対して守備を行わず、他のランナーに対して行おうとした守備が妨害された場合にはそのランナーをアウトにし、その他のランナーはピッチャーの投球当時占有していた塁へ戻らせる。しかしバッターランナーだけは再びバッターボックスに帰せないから1塁の占有を許す。
どのようにルールを解釈するかは人それぞれな部分もありますが、私が個人的に動画を見たところでは
アウトになったばかりのランナーが次のプレーを防いでいる
ということで守備妨害を宣告すべきであったのではないかと思っています。
時折見るプレー、といえば見るプレーであって守備妨害じゃないでしょ、という意見もあると思っていますが次のプレーを妨害しているのは言うまでもないでしょう。
慣習的にアウトを下した塁審の石山の無能ぶりは糾弾されてしかるべきと考えています。(今後のジャッジの参考にもなりますし)
選手を守るルールを作るべきでは
結局、川島選手はこのプレーで負傷し退場してしまいました。
(しかも田中賢介に潰されたのは2度目)
過去にも同様のプレーで負傷し、シーズンを棒に振ってしまってケースもあります。
これまでもやってるし、当たり前のプレー
という理由で田中賢介もなんとなくやっていたのかもしれません。
(感情論ですが、川島をかばうことなくベンチでハイタッチをした田中賢介にはもう彼の地元福岡にかえれないようにしてもいいんじゃないかと思っています)
今回のが守備妨害とならないのであるならば、今後は同じようなプレーが増えてくるでしょうし、同様にケガをする選手が増えるのではないかと一人のファンとしては心配でもあります。
同じような悲劇を防ぐため
2塁上でのクロスプレーにもコリジョンルールを設定する
危険なプレーは退場にする
といったルール作りを行うべきではないでしょうか。
こんなことをいう老害プロ野球界のOBもいますが、見たいのはケガをするほどの激しいプレーではなく、クリーンなプレーのはず。
今回のプレーを契機に、日本でも2塁塁上でのクロスプレーにルールを真剣に検討して欲しいものです。